第66回北桜祭における災害対策研究班の展示2ー南相馬市小高区

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これまでの小高の活動

2016年9月3日
浦尻地区視察
高校生プロジェクト見学
小高復興デザインセンター見学
2016年9月6日
浦尻地区視察
まちなか部会
2016年9月17日
高校生プロジェクト集中WS参加

小高で活動する理由

 福島県南相馬市小高区は2016年7月12日に一部を除いて避難指示解除準備区域を解除され,ようやく人が住める場所になった。私たちは,小高を訪問した。解除後は以前あった人気のない呆然とした街が広がっている異様な光景は解消されたが,人が満足して住める環境にはないと感じた。震災から既に5年半の月日が経ったが,福島県内でも復興の速度が異なっている。これから復興が始まり目覚ましく変わっていく小高で学べる事,そして災害対策研究班が小高に対して少しでもできる事はないかと考え,この活動を始めた。

第一回小高視察

2016年9月3日

浦尻地区視察

 福島県南相馬市小高区の市街地と浦尻地区を訪れるのは,この視察で2度目となった。前回の訪れた時から約2ヶ月が経過した。

 浦尻地区は,前回に比べ防潮堤が形となり目に見えて復興に向かって進んでいることが分かった。しかし,その反面,2ヶ月でここまでしか進んでいないのか,ということも同時に感じた。宮城県などと比べて復興が遅れていることは明らかである。その原因の一つに,原発による影響が挙げられる。また,小高区一部が避難指示解除準備区域に指定されていたこともあると考える。その避難指示解除準備区域も今年7月12日付けで解除されており,復興がより一層進むだろう。浦尻地区の沿岸部は,家がほとんど流されて無くなり,津波の水がまだ残っている光景が印象的であった。その光景を見て,地域住民が家を再建し,元の生活に戻るには時間を要すると感じた。

 市街地の視察では,2ヶ月前までの避難指示解除準備区域の影響からか,空き家が目立った。スーパーや商店等の営業を再開するためには,人が集まることが必要である。そして,人が集まるためには,スーパーや商店等の再開が必要である。このような矛盾が生まれていることが,小高区の課題の一つだと考えている。その中でも,地域に根付いた飲食店(双葉食堂)や,小高区外で営業を行っていた洋菓子店(菓詩工房わたなべ)が小高区で営業を再開した。

高校生プロジェクト

 今回は,南相馬市内の高校生で構成される「高校生プロジェクト」のミーティングを見学した。高校生プロジェクトは,東京大学の学生のサポートのもと,市長への提案を終着点とした活動を行っている。小高区内で開催される秋まつりで,高校生プロジェクトと地域の菓子店(松月堂)がコラボし,オリジナル商品を販売するカフェを出店する予定である。このミーティングでは,商品名,販売の方法等の話し合いが行われていた。

小高復興デザインセンター

 今年7月16日に開所された「小高復興デザインセンター」を訪れ,センターが復興活動に着手してからの説明を受けた。その際に,機織り施設,蔵,小高神社を視察した。機織り施設と蔵の意匠は独特なものである。この二つの建築物は現在使用されておらず,有効利用方法の模索が行われている。8月には建築家の隈研吾氏が視察に訪れており,様々な検討が進められている。

第二回小高視察

2016年9月6日

浦尻地区視察

 今回も浦尻地区の視察をした。前回よりも堤防が遥かに高くなっていたり,二重の堤防の内側に更に新しい盛り土がなされていたりと変化が見られた。

 前回の視察から3日間しか経ってないが,3日間でこれだけ進んだと評価するべきなのか,5年間でこれしか進んでいないと評価するべきなのかは,正直名状し難い部分があると感じた。

まちなか部会

 小高復興デザインセンターが主催している「まちなか部会」に参加した。まちなか部会とは,空き地空き家・歴史的建造物の活用や二地点居住を検討する評議会のことで,住民と南相馬市役所職員,センター所員によって行われる。今回参加したまちなか部会(第一回)は,主に駅前の道の舗装,空き地空き家・歴史的建造物の活用方法について話し合われた。

 駅前の道は,震災前はゴムで舗装したが,老朽化等により改修の必要性が出てきた。部会では,樹脂での舗装改修を行いたいと市役所職員から提案された。それは,予算の都合や耐用年数,景観などに基いた合理的なものである。部外者の私たちから見るとゴムか樹脂かということは些末な問題に思えたが,住民の方々からは「復興のコンセプトがしっかり固められていないから,このような打算的な案が提案されるのではないか」等かなり厳しい意見が飛び,小高が抱える問題,そして私たちの意識の低さを痛感した。

 歴史的建造物については,小高神社に続く道に沿って広がる「妙見公園」の設計案について話し合われた。小高神社の参道や周辺の雰囲気を活かした,視認性が高く誰もが利用しやすい公園というコンセプトで,小高が誇る歴史のアプローチを綺麗にプランニングしてあり,住民の同意も得られていた。

 今回は,第一回目の話し合いということもあり,難航していた部分も多々あった。しかし,住民の前向きな姿勢,集まる人々の熱意により,これからは,いっそう建設的な話し合いが行われることだろう。 

第三回小高視察

2016年9月17日

高校生プロジェクト集中WS

 高校生プロジェクトでは,高校生を中心に11月12日(土)に行われる南相馬市長への提案に向けて,3つの課題に取り組んでいる。

①高齢者や一人暮らしの方のサポート、地域の方との交流
②空き地・空き家の活用(蔵の活用)
③通学路を中心とした子供の環境

 私たちは,空き地空き家の活用について高校生と一緒に考察した。

蔵の見学  

 まず,高島家の蔵を見学した。高島家の蔵は,小高への入口である上町の通り沿いに位置する。

 敷地の周りをレンガの壁が囲い,趣がある。日本の伝統的な土蔵とは異なる魅力を感じた。屋上の装飾も規則性のある凸凹が,建物の存在感をより引き立てている。1階の壁はコンクリート打ち放し,天井は7本の木材の梁が均等に並ぶ。1階とは異なり2階は,壁は白塗り,天井にはシャンデリアの名残を感じ,洋風に仕立てられていた。現在この蔵は,倉庫として使用されている。

 屋上からは,四季折々の景色,春は美しい桜,夏は大輪の花火,冬は満天の星空が楽しめる。

蔵の活用についてWS

 高島さん夫婦の若い人に蔵を利用してほしいという意向により,高校生が主体となって利用方法について意見交換をした。放課後に,友人と会話や食事をしたいという高校生の希望から様々な意見が出された。

WSでまとまった提案

 次の3案にまとまった。

①フリースペースにして友達と食事や会話を楽しむ。蔵の持つ音が響く特性を利用して演奏会を開く。
②蔵の歴史の展示,カフェや食堂,話せる図書館や古本屋を造る。図書館や古本屋は,高島家にあるたくさんの書物を活用しても良いとのことから提案された。
③屋上でBBQや天体観測会等を催す。

地元の高校生と交流

 夕食時に高校生とともにカレー作って食べた。高校生が日常生活等について,気さくに話してくれ,交流を深めることができた。自身の高校時代を振り返ると,小高の高校生のように自主的に地域活動をしたり,地元の未来について友人と真剣に語り合うという機会がなかったので刺激を受けた。

まとめ

 小高の復興は始まったばかりである。しかし,今回高校生プロジェクトに参加して,高校生一人一人の復興に対する思いはとても強いと感じた。高校生のプロジェクトの一助となれたことが大変心嬉しい。

小高の現状

 避難指示解除準備区域が解除されてから早3ヶ月が経過しているにも関わらず,小高で生活を始めた住民は800人に留まり,活気が無い。小高の原発に対するイメージが払拭できていないことや,震災から5年半が経過してしまってしているので,生活基盤が避難先で構築されており,なかなか人が戻ってこない等の問題がある。

3回視察して分かった小高

 人がすぐに住めるように等という上辺だけの復興ではなく,これから小高を使っていく世代の意見を取り入れた復興をしようとしていることが,小高の特徴である。復興事業には予算等のお金が絡むことが多く,若い人は参加し難い。しかし,小高では,高校生を南相馬市役所や小高復興デザインセンターがバックアップする体制ができ上がっている。小高に戻ってくるきっかけとなる「おだか秋まつり(10月15・16日)」では,高校生が主体となって小高の良さをPRするカフェが開かれる。また,高校生がこれまで活動してきたことや,これからの展望について南相馬市長に直接提案する機会(11月12日)が設けられている。  また,小高では東京大学をはじめ様々な大学が活動を行っている。我々も,これまでの活動を通して,小高の復興の一端に触れることができた。これは,小高が開かれた復興を行っていることを示している。

DRMから見た小高の課題

 小高は地震,津波,そして原発の被害を大きく受けた。しかし,現在は除染作業も進んでおり,現在の空間放射線量は0.09μSv(2016年9月6日,小高駅前モニタリングポスト)と,現在私たちが住んでいる郡山よりも低くなっている。しかし,小高は未だ原発風評被害の影響下に置かれている。

 これまで小高を支えてきた産業のなかで,原発は非常に大きい。しかし,これから脱原発依存を意識していかなければならない小高にとって,原発にとって代わる産業の存在は必要不可欠である。私たちDRMは,その産業が,歴史や文化財を主体にした観光業にあると考えている。小高には大悲山の大仏や,小高神社を筆頭に,浦尻貝塚,天野家住宅,高島家の蔵等の①魅力的な歴史的財産,②自然豊かな環境,そして江戸時代に相馬中村藩によって育まれた野馬追という③素晴らしい文化がたくさんある。そのため,観光業を軸としての復興は実現可能性が高いと考察する。

 DRMは機会がある限り小高の魅力を発信し,小高の復興に微力を添えられたらと考えている。

小高との今後のかかわり方

 視察の後に,検討会を行った。その検討会では,小高の魅力・課題を挙げ,実行可能性のある項目を,いくつかリストアップできたこれらの項目から,今後の活動の指針を定めた。地域性や住民間のコミュニティ等の様々な要素が多いため活動をするにあたってはそれらの要素の規模によって問題に対する解決・改善策が変わってくるだろう。

 まず,足掛かりとして「緊急時における避難経路の明確化」を研究していきたい。

 今後DRMは,地域住民,小高復興デザインセンター及び南相馬市役所と連携を図りつつ小高区内のまち歩きを行う。まち歩きを通して得た知識を基に,避難経路の明確化,それに伴いハザードマップ作製をする。また,駅前通りの活性化や,サイン・デザイン統一について提案していく活動なども視野に入れている。それに加えてプロジェクトに対して意見をすることや,自分たちでプロジェクトを考えて形に起こす等の活動をしていく予定だ。

これからの小高の活動
1. 緊急時における避難経路の明確化
2.コミュニティ維持のための集会所の計画・設計
3.空き家・空き地等の有効利用
4.駅前通りの活性化
5.まちなかのサイン・デザイン等の統一

1. 緊急時における避難経路の明確化

 高齢者が多い小高区内で,避難経路は計画されているのだろうか。今後起こるかもしれない地震,台風,原子力災害等に備え,街歩きを重ねながら,小高区市街地を中心に避難経路の検討を行う。

 また,迅速な避難には,コミュニティ内だけでなく,コミュニティ同士の連携も不可欠なため,既存のコミュニティを生かした避難方法も検討したい。

キーワード:防災・減災・コミュニティ

2. コミュニティ維持のための集会所の計画・設計

 震災後に建築された集会所に塚原公会堂がある。そのような地域のコミュニティの中核となる集会所を調査し,現在求められている環境や機能をフィードバックした集会所を提案したい。

 また,後述の「空き家・空き地等の有効利用」と併せて,既存の建物を利用した持続性あるコミュニティの在り方についても検討していく予定である。

キーワード:コミュニティ・持続性・活性化

3. 空き家・空き地等の有効利用

 小高区内には,震災後に生まれた空き地・空き家が多い。これら既存建築物の利用は,今後の小高の都市再生に欠かせない。

 先日の高校生プロジェクト集中WSの議論で得られた考えや,地域住民の要望を取り入れ,新しくも懐かしい小高の再生を提案する。

キーワード:懐かしさ・新しさ・コミュニティ・歴史・低コスト・持続性

4. 駅前通りの活性化

 大手チェーン店の参入が少なく,震災前は比較的活気を保っていた駅前商店街。以前の活気を取り戻すためには,商店街を中心とした,まち全体の再生戦略が必要である。

 また,商店街だけでなく,農商工連携のまちづくりについても議論していきたい。

キーワード:活性化・低コスト・持続性・コミュニティ

5. まちなかのサイン・デザイン等の統一

 まちなかのデザインの統一は,そのまちのアイデンティティの確立に繋がる。これは,地域住民によって掲げられたコンセプトの上で計画していくものかも知れないが,復興プランに沿うデザインで街中を飾る手段の一つとしてサインやデザインの統一を提案する。

キーワード:アイデンティティ・景観・防災・文化

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後藤 寛尚
第64期建築研究会会長
2015年入学。福島県南相馬市出身。