空間建築班 「小さな巨人たち〜つくって,こわして,なおして〜」

プロローグ

私達は,子ども達が楽しみながら建築を学べることを第一に考えていました。しかし,どんな内容にするかで対象年齢の決定が難しく,作業が難航しました。

子どもは何して遊ぶ?

子ども達の興味について考えるとき,まずは自分達の幼少期を思い出しながら模索しました。そして,子ども達自身が参加していると感じること,体験することが大切であると気付きました。構想の段階で,今の子ども達が何に興味があるのかを書き出していき,最近,影響力を持ち始めたソーシャルメディアのYouTubeなど,今の子ども達の流行を利用する案で行くことになりました。

福島の建築学生として

地震大国である日本において,人々は被災するたびに新築したり,壊したり,修繕したりしながら生活を送ってきました。しかし,多くの人は数年もすれば被災した経験は記憶の片隅に追いやられ徐々に薄れていきます。それは,被災した人が一部の人であり,多くの人は被災経験がないことにあると考えました。また,生活に必要不可欠な建築を通して災害について考え直すきっかけを作りたい,福島の学生として災害のことについて子ども達に伝えたいと思いました。

このワークショップでは,災害という繊細なテーマを扱います。子ども達に災害に対してただ恐怖を植え付けることを避けるため,災害を特撮やアニメに登場する悪役が街を壊すことに例えます。また,子ども達に悪役になってもらうことで普段とは違う視点で街について考えてもらいます。次に,自ら壊した街をどうやったら直せるか考えてもらいます。これは建築の保存や修繕を知識のない一般の人に知ってもらうため,建築家の視点ではなく技術者(大工など)の視点で行うことにします。

この一連の流れを映画制作を通して行うことで街や建築,創作の楽しさを知ってもらうきっかけを作ります。また,YouTubeなどの映像コンテンツを通すことで子ども達に思い出を作品,映像にして残すことができます。

これらより私達は,

①親子で災害について考える
②建築をつくるサイクルを通して創作の楽しさを知ってもらう

この2つのコンセプトを軸に,このワークショップは企画されています。

ポスターディスカッションに向けて

審査員に説明するため,子ども達に作ってもらうまち・いえの模型のスタディを何度も行いました。子ども達にも作りやすく,壊しやすくすると同時に,我々も手伝いやすくする,という観点から,新聞紙とスチレンボードを利用することにしました。最初に取った方法は,新聞紙を丸めた簡単な骨組みを輪ゴムで固定する方法でした。そこにスチレンボードを組み合わせて,窓やドアの絵を貼ってもらい,壊してもらう流れで進めようというものです。しかし,試しに壊したところ,損傷箇所が致命的で,修復がかえって難しくなってしまうという課題にぶつかりました。また,建てたときのバランス状態にも問題があり,ワークショップを実際に行うとすると,壊す前に崩れてしまうのではという心配も出てきました。そこで,試行錯誤を繰り返しました。最終的に,新聞紙の骨組みを増やし,ブレースで補強して,骨組みの接合箇所をガムテープと輪ゴムでさらに補強した上で,スチレンボードを組み合わせる方法を取りました。作る過程こそ増えはしましたが,作りやすいという点を考慮し,最初の案よりも直しやすい物にすることができました。これらのノウハウを詰め込んだ立方体のプロトタイプを制作し,コンペで参考例として発表しました。

言葉にすることの意味

結果として上位に入ることはできませんでした。苦労してまとめ上げた案だっただけに悔しかったです。しかし,その悔しさ以上に大きな発見がありました。それは,懇親会の時の審査員の方が仰ってくださった考えです。

「建築だからついついお堅い学びと考えちゃうけど,遊びを取り入れることが大事。子ども心を呼び覚ますこと。」
「子どもだからといって侮らないこと。大人が気付かないところまで実は見抜いている。」

私達の中に足りなかったものが,コンペの懇親会で見つかったのです。「堅い概念や巨匠の偉業にも惑わされなくていい‼」,「こんな空間があったら面白いのではないか,他の人間がある方法で攻めるなら私は別の視点から遊んでみる」といったような自由な発想を固定観念に囚われず建築に望んでほしいと言っていると我々は感じました。その会話には,他の大学の建築学生もおり,僅かな時間ではありましたが,友好を深めたり,互いに刺激をもらったりすることができました。コンペで大事なのは,競い合っていた相手や審査員といった多種多様な方々と知り合うことだと感じました。優秀賞は二の次で,コンペを通して,楽しみ,自然と能動的な姿勢になること,これらのことは,今回のコンペに参加していなかったら得られなかっただろうと思いました。